道楽記

“雪国”の情景

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2014.12.13 撮影


“国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。”
これは川端康成先生の小説“雪国”の冒頭である。大変美しい表現だが、この日はまさに“雪国”の描写そのままの車窓が広がっていた。特に“夜の底が白くなった”の部分、次第に日が暮れてくると意味が分かる。“底”とは地面の比喩表現だろうが、山に囲まれた地形を縫うように走る車窓から見ると成る程、“夜の底”という表現が確かにしっくりくるのだ。しかし、凡人には思い浮かばない表現である。川端康成先生の偉大さがよく分かるシーンであった。


 

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同じ日に上越線の群馬側で撮った“SLみなかみ”号。上越国境を挟んで群馬側と新潟側とでご覧の通り、全く車窓が違うのである。直線距離で僅か20km程で、別世界へ誘われた。ある程度の積雪は覚悟していたが、想像を遙かに超えた積雪量に度肝を抜かれた。そして、一番困ったのは自身の装いだった。チェスターコートにローファーという軽装で、1mに迫ろうという積雪を掻き分け撮影地まで歩くのだ。本気で帰ろうかとも思ったが、どうせ駅に戻っても列車は無いし結局寒いのは同じ事、と線路際に留まった。

線路際で震えながらカメラを構えていた時は“雪国”の情景が・・・なんて全く思いしなかったが、こうして当時を振り返ると成る程と思うのである。